今宵の雪のように





「寒っ!!」

部活を終え、当番の掃除も終わり、帰宅しようと部室の扉を開けた時。
冷たい風が出てきた天国の体に突き刺さってきた。

厳しい練習で流した汗も乾き、体の熱気も冷めたころだ。
体が冷気を敏感に感じ取るのは無理もなかった。


「あー…雪まで降ってやがるし。」
ついでにちらちらと空から冬の代名詞も降ってきていた。
天国の性格的にはかなりはしゃぎまわりたい天候だが、一人だとテンションも下がる。

せめてもう一人いたら、マシなのに。

(しかも相手が凪さんだったら別のテンションもあがったりしてな〜vv)
特別な相手を第一希望に挙げた妄想も浮かべたりはするが、
いかんせんその相手は本日は家の都合で部を休んでいる。

多分家族の大学合格祝いだろう。
凪の兄である剣菱は、先ごろ無事に大学への進学を決めていたのだ。

(剣菱さんあれでかなり頭よかったんだよなあ。)
ルックスも良く野球の技術もあり(健康に問題はあるにしろ)、さらに頭もよいとは。
性格も…まあ多少以上の難あれど悪い奴でも嫌な奴でもない、尊敬できる人だ。


(ま、俺もそのうち祝いの一言でも送りに行くかな)

凪が関係しなくとも、野球においての得難いライバルともいえる人だったから。
祝ってもいいかなと思う。


(そういや、祝うっていえばうちの先輩方も…。)
十二支の主だった上級生たちもすでに進路は大体決まっていた。

牛尾と蛇神に関しては、家を継ぐというかなり特殊な進路がすでに決められていた。
牛尾は大財閥の御曹司としての本格的な修行に入るようだが、大学にも形だけは入るようで。
蛇神に至っては卒業後、すぐに修行僧として入山することが決まっていた。

(あの二人にはヘタしたらもう会えないかもしんねーな…;)

思えば二人とも素人の自分を陰に日向に成長するよう引き上げてくれた。
いくら感謝してもし足りない相手だった。


(鹿目先輩にも、三象先輩にも…一宮先輩や他の先輩にも世話になったよなあ。)

時にはぶつかりつつ、また笑いあいどつきあい(?)いろいろ教えてくれた先輩方。


他校にも、剣菱以外にもそんな人たちがいた。


(そーいや屑桐さんも魁さんもはもうキャンプ入りしてたっけな。
 ねーさんたちもエロ師匠もビンボー貴族も大学決まってたし…チャイナ先輩も大学日本に決めたって言ってたっけ。
 )

いろいろな先輩方におもいを馳せながら、天国はゆっくりと校門に向かう。


雪は物思いにふけっていた短い時間の間にまた多く降りだした。

そうなると末端から冷え始める。
天国の手はすでに冷たくなってきていた。



「はあ。」
(そういえば手袋、忘れてたっけ…。)

ミスったな、と思いながら息を吐いて少しでもぬくめる。



「おい、猿野。」

「あ?」

ふと顔をあげると、そこに髭面の男がいた。
野球部監督、羊谷だ。


「こんな時間に残ってるってこたお前が当番だったのか。
 ちゃんとおそーじできたんだろうな?」
「どういう意味だヒゲ。」
「そーゆー意味だ。ま、お前の掃除の腕は確かみたいだがな。
 さんざんやったし。」

ぐりぐりと頭をなでつけられる。

「うるせーな、あんまぐしゃぐしゃにすんな。」
撫でてくる手を払おうとすると。


その手をとられた。


「冷てーな。手袋はどうした。」

少し真面目な顔で手を取られ、少しどきりとする。

「…忘れた。」

「そうか。気をつけろよ。
 あんまり冷えるとよくねえぞ。」

「分かったよ。」

そう言って、放そうと思ったが。



「…ホント、冷たいな。」

今度は、両手で包みこんでくる。

「ひ…ヒゲ?何…。」



「…いや、なんでもねえよ。
 そろそろ周りが怖えからな、早く帰れよ。」


「?うん…。」


羊谷から手を放され、見送られ。
天国は校門を出て帰って行った。



#########

「もう出てきてかまわんぞ。」
「バレてましたか。」
「…あなどれんな。」
「いつからお気づきでしたか、羊谷殿。」
「まいるね〜。」
ぞろぞろと校舎の影から出てきたのは、各校名門野球部の名門キャプテンたち。

「それだけ大人数でごそごそやってりゃすぐ分かるわ。」
教え子を含む若僧たちに羊谷は苦笑する。

「別に隠れる必要はなかっただろ。
 送ってやってもよかったんじゃねえのか?」

「…まあそうなんですけど、ね。」


羊谷の問いに、牛尾が言葉を濁す。
他の3人も答えづらそうに目をそらす。

だが、羊谷にはなんとなく答えがわかった。


「よけいなこと言いそうか。
 置いていく側としては。」

「……ええ、そうですね。」
少し驚いた顔をして、牛尾は苦笑した。



「まったく、青いな。」
ぽん、ぽん、ぽん、ぽんと子供に見えない10代のガキの頭を羊谷は順番に軽く撫でるようにはたいた。


「何を…。」
戸惑った声を出したのは、屑桐。

それに羊谷は少し微笑む。



そして言った。
「おいてくおいてかないくらいでなくなる関係じゃねえだろ。
 そうするかしないかはお前ら次第だがな。」


「…羊谷殿。」

「…へ〜、いいこと言うね。」

「全くだ。」

「…そうですね。」


羊谷の言葉に、同時に少し驚いて、同時に少し感心して。
同時に走って行った。


雪のように終わらせたくない関係の彼のもとに。


ふー…。
雪空に羊谷は紫煙を吐きだした。


「まあ、それでもそれなりに堪えるもんだがな、今の時期は。」
これからも何度も置いて行かれる身としては、とひとりごちる。



明日は、卒業式。


かわいい教え子たちに、幸あれ。
柄にもない、と笑いながら。


あと2年。
その時は少し泣いてやろうかと、羊谷はひそかに思った。
それは雪のようにささやかな恋だった。




end


大変遅くなりました、もしご覧になってくださったら至福です。
雪の降る町様、本当に申し訳ありませんでした!!

わかりにくくなってしまいましたが、羊谷監督、天国のこと好きです。(これでも)
不倫はあんまり好きではないのであくまでプラトニックですが。
こんなので本当にすみません!!


素敵なリクエスト、ほんとうにありがとうございました!
本当に申し訳ありませんでした!!


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